たわむれ日記

たわむれに いろいろ書き散らします

読了『お探し物は図書室まで』青山美智子

仕事や人生に悩む老若男女がふと訪れた町の小さな図書室。
司書の小町さんは少し変わった選書をする。
リストの最後に記された無関係のように見える本から人々は何かを読み取り、本当に探しているものに気づき、人生を切り拓いていく。

全部で五章からなる物語で一話完結。けれど登場人物たちがゆるーく繋がっているのが安定の青山美智子ワールド。

舞台が『図書室』というのが良い。

図書館じゃなく、図書室。
小学校に併設されたコミュニティーハウスの一角にある図書室。

ふと、小学生の頃通った公民館の図書室を思い出した。
会議室の一室をとりあえず図書室にしてみました、という体で、土曜午後だけの開館だった。司書さんはもちろんおらず、地域の大人が順番で貸出係をしてくれていたっけ。

我が町にも司書の小町さん、居てくれたらなぁ

小町さんが『何をお探し?』と聞くたびに、わたしは何を探しているんだろうなって、登場人物と同じくぎくっとした。
わたしにはどんな本を選んでくれるのだろう。
その本を読んでみたい。

 

一章読み終えるたびに、清々しい気持ち、活力が湧いていくるようだった。

青山美智子さんの本を読むときはいつも、付箋だらけになる。この本も好きなフレーズだらけ。
どの章にも心を掴まれたが、特に好きだったのは二章と三章。

 

二章は家具メーカーで経理をしている35歳の諒。アンティーク雑貨の店をいつかやりたいと思っている。でもお金も時間も一歩踏み出す勇気のない彼に、パラレルキャリアで店を開いた安原さんは、『ない、がある時点で、だめです。』と告げる。

『その「ない」を、「目標」にしないと』

ハッとした。わたしも諒のように『ない』から出来ないと避けたり止めたり諦めたりしたことがある。『ない』から『いつか』やろう。時が来るのを待っていたら、いつまでたっても出来ないかも知れない。現にわたしは気づいたら孫がいる年齢になっている。

『ない』から諦める、先送りにするんじゃなくて、『ある』に変えるために動き出してみる、自分から取りに行くってことが欠けてたなぁ

ないもの探しばかりして、今あるものに気づかない。
『ない』を諦める理由にして人生の舞台から降りてしまう。
それで本当にいいの?

いま『ある』ものにも目を向けて、『いつか』を『明日』に変えていく。
そんな心意気を、死ぬまで持ち続けたいと思った。

 

三章の元雑誌編集者で子育てしながら意に沿わぬ部署で働く夏美の話は、途中まで息苦しいような気持ちで読んだ。
ワンオペの家事と子育て。いつだってしわ寄せは産んだ母親に来る。わたしばかり損してる。望んで産んだ大切な我が子なのに、まるで我が子のせいで自分の人生が狂ってしまったみたいな気持ちになっている自分に愕然とする夏美。

そんな夏美への意外な選書は、石井ゆかりさんの『月のとびら』だった。

石井ゆかりさんの占いというか文章がとても好きで、noteやLINE、星読みサイトなど登録しているものの、占い以外の著作は1冊しか持ってない。
『月のとびら』という本も知らなかった。

夏美は本の言葉たちに気づきを得たり癒されたり、言葉から力を受け取っていく。
すると夏美の中の何かが変わっていき、人生にも変化が訪れる。

夏美は、この本のおかげで変容しようと思えた、と司書の小町さんに伝える。
小町さんは答える。

『どんな本もそうだけど、書物そのものに力があるというよりは、あなたがそういう読み方をしたっていう、そこに価値があるんだよ』

これって、青山さんから読者へのメッセージにも受け取れる。

石井ゆかりさんの『月のとびら』は、わたしも買うことにした。

 

5つある物語に共通している想いなんじゃないかな、と思ったのは、三章に登場した大御所作家みづえ先生が夏美を励ました言葉。

人生なんて、いつも大狂いよ。どんな境遇にいたって、思い通りにはいかないわよ。でも逆に、思いつきもしない嬉しいサプライズが待っていたりもするでしょう。結果的に、希望通りじゃなくてよかった、セーフ!ってことなんかいっぱいあるんだから。計画や予定が狂うことを、不運とか失敗って思わなくていいの。そうやって変わっていくのよ、自分も、人生も

 

五章の、定年退職した会社人間だった正雄が小町さんに『残りの人生が意味のないものに思える』とこぼした時の、小町さんの返答もとても良い。
例えが秀逸で、
!!!
だよねー!って思わずひとりごと言ってしまった。

つい、よく目や耳にする『残りの人生』なんて表現を使ってしまうけれど、そんな風に自嘲しなくてもいいよね。そういう、どこか分からないところからの押し付け見解に流されず、ちゃんと気づいて生きていきたいなって思った。

正雄の気づき『役に立つか、モノになるか。これまでのわたしを邪魔していたのはそんな価値基準だったのかもしれない。』

わたしも物事を同じように判断することがある。それが人生を息苦しくしたり退屈にさせると知っていても。

でもそう、『心が動くこと自体が大切なのだ』よね。

歳をとっても、『わたしはわたしを退いたりしない』。
わたしも、『目に映る日々を、豊かに味わっていこう』と思った。

 

文庫本になったら買おうっと。