たわむれ日記

たわむれに いろいろ書き散らします

偶然の再会と映画『帰れない山』

9月中旬 5:18AM

9月のとある日。

外出を予定していたが、前夜から出かける直前まで迷っていた。
理由は天気。
晴れ時々曇りの今日よりもカラリと晴れ予報の別の日の方が楽しめるんじゃないか。

ミニシアターで映画を観た帰り、海でまったりする予定を立てていたのだ。

結局、気持ちが定まらないままふらりと家を出た。

上映時間は午後。
その前に、お気に入りのあの店でランチを楽しもう。
ランチを食べている間に気持ちが萎えてしまったら映画は別の日にしよう。

向かったのは鎌倉。

まずは何をさておき、八幡さまへお詣り。
おみくじは小吉だった。
お言葉がじわっときたので持ち帰る。

混んでいる小町通りは避け、復路も往路と同じく段葛をのんびりと歩く。
ひと頃よりも観光客、特に外国からの観光客が格段に増えた。

お店の前に着くと一組待っていて、その後ろに並ぶ。聞こえてくる会話から、二人が外国から、一人が通訳兼ガイドのようだった。
しばらく待っていると若いカップルが来て、Are you in line?と聞かれた。yesと答える。見た目は日本人、どこのお国かな?

先に並んでいた組の通訳の方が、そうなの、この店は人気なのよ。とても美味しいから!と力説する声が聞こえてきた。

店の名は『なると屋+典座』。
ヴィーガンの和食の店だ。
ランチメニューは葛とじうどん、葛とじうどん+惣菜三品、9月のごはん。
蒸し暑かったので迷わず9月のごはんにした。

9月の御前。赤だしの味噌汁には揚げたいちじく!

定番の胡麻豆腐、冬瓜と厚揚の煮物、揚げさつま芋に大根おろしなめこ+海苔。ご飯の上に乗っているのは大葉と椎茸。

どの品も味わい深く、冬瓜と厚揚の小鉢はおつゆまで飲み干してしまった。
やさしくも底力のあるお味。

いちじくと赤だしも相性抜群。
そういえば、トマトの味噌汁を初めて食べたのもこの店だった。
湯むきしたトマトが丸ごとお椀の真ん中に鎮座していて驚いた。
恐る恐る食べてみて、その美味しさに再び驚いた。

何気に攻めてるよねぇ

満足して箸を置く。

滋養に溢れているから満ち足りる。

 

お会計に立ったら、「彗ちゃん」と声をかけられた。

誰かに会うかもなぁとは思っていたけれど、まさかの旧友、まさかの5年ぶりであった。

彼女も一人でご飯を食べに来ていて、懐かしくて嬉しくて、彼女の席まで移動し食事の邪魔をした。お店の方がすぐさまお茶を持ってきてくださって、お会計済ませたばかりなのに恐縮すると、にっこり笑って立ち去った。

彼女も平日休みで、夜行バスで京都にでも行こうかと思いつつ迷い、結局ふらっと鎌倉に来たのだそうだ。・・・似てる。

これからの予定を聞かれ、アミーゴに映画を観に行くと伝えると、わたしも観たいとのことで一緒に逗子へ。

逗子ローカルの彼女に先導され、逗子駅から今まで通ったことのない住宅街を歩いて向かう。
松竹梅が鬱蒼と茂った昭和なお宅を発見したり(見事な蔦ニズム!)、松は薬草で湿布したりお茶にすると良いなんて話を聞きながら。

観たかったのは、『帰れない山』。

小説を読んだとき、映像化されたら素晴らしいだろうな、観てみたいなと思っていたら、映画になったのだ。

5月から各地で上映されていて、横浜や都内に観に行こうとも考えたが、いや絶対アミーゴに来るはず、アミーゴで観たいと思っていた。

満席に近く、真前のソファ席に陣取る

映像は想像以上に美しく、山の暮らしの様子に引き込まれた。
二人が力を合わせて小屋を作っていく場面がいい。

小説を忠実に丁寧に映像化していると思うが、どうしても1本の映画にするにあたり、削られてしまう部分もある。

ピエトロと父との関係や葛藤、ブルーノとピエトロが友情を育んでいく過程が薄いように感じた。ピエトロが亡き父の古い地図を発見し、父が登った山をひとつひとつ足跡を辿っていき、それぞれの山頂でノートに記した父の筆跡と想いに触れる場面は、さらっとし過ぎて残念に感じた。

物足りない部分もあったものの、二人の友情には胸が熱くなった。

喧嘩しても、離れても、たとえ交流が途絶えても、友達は友達だ。
自分が友達と思うなら、ずっと友達だ。

映画の後は逗子海岸に出た。
海の家は解体中で、浜は賑やかだった。

雲が多くて墨絵のよう、夕焼けにはならなかった。

アミーゴの館主Gさんの御母堂が散歩に出てきていて、友人はしばらく話していた。
わたしはお会いしたことはあるものの、親しくお話する間柄ではないので離れて足を波で洗っていた。

生暖かい海水が足を洗うたび、少しずつ体が軽くなっていくみたい。

この日の逗子の海はやさしく感じた。

大浜、一色、森戸、逗子、鎌倉、江ノ島鵠沼、辻堂・・・
同じ相模湾に接している海だけれど、どの海岸もそれぞれ個性的。
まったく違う。
それがまた、面白い。

 

友人によると、Gさんのお父様は亡くなられ、生前この時間になると海岸を散歩していたのだそう。今日は結婚記念日なので旦那さんと偲んで散歩しているのだそうだ。

いつもオシャレだったGさんのお父様。
底抜けに明るくてユニークで楽しい方、という印象が強い。
そうか、お亡くなりになったのか。。。

映画の余韻もあって、墨絵のような景色が今日という日に似つかわしい気がした。

この世界から肉体は無くなっても、その存在はこの世界に遍在している。
生命ってそういうものだとわたしは想う。

ピエトロにもそう伝えたいと思った。