髪を切ってリタッチカラーをした。
伸びたショートボブからショートになった。
もう春風に髪はなびかず、色気も何にもないが、すっきりさっぱり。
リタッチをする前に、根本から地毛の色が見える今の感じもいいかもと思った。わたしはマメにヘアサロンに行く方ではないが、Tちゃんのカットは伸びても様になるので、伸びたらどうなるのか、髪型や髪色の変化をしばらく楽しめそう。
ヘアサロン・・・というよりも『理容室』で、Tちゃんの世界が広がる店内。
去年独立し、ソファや椅子などのインテリアは一つずつ、行くたびに増えていった。
横一面の鏡の前には椅子が2台置かれているが、使うのはいつもひとつ。
一人だけで営業するスタイルで、他のお客さんがいないのも良い。
気兼ねなくおしゃべりしたり、沈黙を楽しんだり。
Tちゃんの店に行くと思い出すのは、荻原浩さんの短編小説『海の見える理髪店』だ。
以前NHKBSで柄本明さん主演のスペシャルドラマを見た。
柄本明さんの演技は素晴らしく、堂に入っていて、藤原季節さんの役も雰囲気があってぴったりだと思った。
Tちゃんの店からは海は見えないし、小説の店主とは似ても似つかぬどこまでも爽やかな青年なのだけど、開店したばかりの店を訪れた時ちょうど読んでいた小説なので反射的に思い出すんだろう。
それに、今まで通ったヘアサロンはヘアサロン然としていたから。
前の店でのTちゃんしか知らないので、この店を初めて訪れた時はなるほどと思った。
爽やかイケメンTちゃんの内面に初めて触れたみたいだった。
そうか、こういう世界を持っているんだな。。。
わたしのような、お洒落に興味がなくなってしまったオバさんが来ても大丈夫なのかと気後れしたが、不思議と落ち着く。
それはきっと、自分の世界を持っているTちゃんが、他人の世界に寛容だからなんだろうなと思う。
店内の絵やイラストはわたしの目に新鮮で、その中でもおぉっと心惹かる作品が何点かある。いくたびにじっくりと鑑賞する。
まるで接点のない趣味嗜好かと思ったが、そうでもないのかも。
わたしの中にも共通する何かがあるから、お洒落な店内でも腰を落ち着けてゆったりと過ごせるのかもね。
髪型と色を整えて数日。
会う人ごとに褒めていただく。
褒め言葉はそのまんま受け取ることにしているので、嬉しさだけが貯金されていく。
ただ今の季節、冷たい風が首と頭を冷やすので麻のストールが手放せなくなった。