たわむれ日記

たわむれに いろいろ書き散らします

好き過ぎてバイトしたらもっと好きになった話

今までやったアルバイトでダントツに楽しかったのは、海の家。

鎌倉に移り住み、交友関係や行動範囲も広がって、鎌倉と同じくらい大好きになった街、葉山。

その当時住んでいた家から海まで歩いて3分という立地にも関わらず、入り浸っていたのが一色や森戸の葉山の海。

江ノ島由比ヶ浜、逗子の海は派手でイケイケな感じ、対して葉山の海は落ち着いていてのんびりしている。人も、時間の流れも、まるで違った。

一色には御用邸があり、森戸には森戸神社という海岸のシンボルがある。

移住して初めての夏、3日と開けずに通ったのが一色海岸の海の家だった。
ご飯が全部美味しいし、タピオカミルクティーや渋いマスターが淹れてくれる珈琲の店も併設されていて、とにかく居心地抜群。

ランチに、夕食に、友達を誘って、または一人でふらっと通い尽くし、好き過ぎて翌年はバイトに応募してみた。

こんなおばさん、雇ってくれないだろうなぁ
でも物は試し、当たって砕けろ!

とてもラフな面接で、あっさり採用となった。

持ち場はバーカウンター。

若い子だけじゃなく、わたしくらいの年齢がいると落ち着いた雰囲気になって良いのだそうだ。

バーの仕事はしたことなかったから、カクテルの本を買って時間があるとそれを開いては勉強して頑張った。

その年、バーのチーフをしていた男の子は穏やかな空気をいつもまとっていて、長蛇の列が出来ていても慌てず焦らず、お客さんとコミュニケーションを取ることをとても大切にしていた。

ランチやディナータイム、ライブがある時は3列にしても列は長くなる一方で、そんな時はとにかくさばく、殺伐とした雰囲気になりやすいのだが、彼がいると一気にその場が和んだ。

対面したお客さんの注文をとりつつ、短いながらも笑顔で会話しているのだ。
長い行列を覚悟して並び、お客さんの表情も硬くなっていることが多いが、一言二言会話するとふわっと表情も雰囲気も緩む。そして笑顔で飲み物を受け取っていく。

彼独特の緩い雰囲気のおかげで、激混みの時間帯でも集中するが我を忘れることなく、楽しく頑張れた。わたしはさっそく彼の接客態度を真似した。

どんなに忙しくても笑顔で軽く会話し、焦らない。
忙しい切羽詰まった雰囲気を作らない。

だってせっかく来た海、楽しくて良い思い出を持って帰って欲しい。

海の家のスタッフが忙しさにツンツンキリキリした雰囲気醸し出してるなんて、不粋の極み。

この海の家では全部で3夏、バイトした。
次の年からバーのチーフが変わり、あの独特の緩い感じは無くなったが、良い雰囲気なのは同じだった。

でも、あの最初の夏がわたしの中では一番だ。
チーフはじめ、バーのスタッフ皆んなのチームワークと雰囲気が最高だった。

 

バイトは早番と遅番があり、どっちも好きだった。

早番の時は、敷地内の砂を全部ふるいにかけることから始まる。
この海の家は板を張らず、客席はすべて砂地の上だ。
真夏の昼間、海岸の砂はビーサンを履いていても火傷しそうに熱い。
屋根のある海の家の砂はひんやりと気持ちよく、ビーサンを脱いで歩く人も多い。
親が飲食で寛いでいる足元で、お子さんが砂遊びもする。
なので、ゴミを取り除くという目的のほかに、危険なものが埋まっていないように毎朝ふるいにかけるのだ。

ここまでしているとは。。。
ますます好きになったのは言うまでもない。

建物はリサイクル資材や地元の竹を使い組み上げ、店内のランプもひょうたんや竹でスタッフの手作り。
地産地消の食材で丁寧に作られている食事。
しれば知るほど好きになる職場って、なかなかない。

早番は、仕事が終わってもまだ陽は高い。
そのまま友達と待ち合わせして、稼いだ分をお店に還元したり、海で遊んでお隣のこれまた渋い海の家で飲食したり。

遅番の醍醐味は、サンセットと夜の海、そしてライブだ。
バーカウンターは海に向いているので、仕事をしながら美しい海の夕焼けを堪能した。暇な平日などは、同僚にことわって写真を取りに出たり。
ため息が出るようなサンセットをいくつ見ただろう。
世界がオレンジピンク色、空気まで染まるような日もあった。

ライブの日は超がつくほど忙しいが、仕事しながら生の音楽が聴ける醍醐味がある。
好きなアーティストを距離的にも近くで聞けたり、新たな音楽と出会えたりもした。

奄美島唄朝崎郁恵さんの歌はここで初めて聴いた。
魂が震えた気がした。
震災の翌年で、彼女の歌う「ふるさと」がずんと響き涙が出た。

 

バイトで一番印象に残っているのが、最初の夏、チーフと夜の海に浮かぶ月を眺めたこと。
平日で人も少ない夜で、ひときわのんびりとした時間が流れていた。
暗い海に時おり白い波、ほぼまん丸の月が目の前に浮かんでいて、海には月の光の道が真っ直ぐに輝いていた。

あーこんな素敵な夜にバイトなんて!

思わず漏らすと、「えーー、そんなこと言わないでよ〜(笑 この時間、最高だよぉ! 俺、満喫してるのに〜」とチーフ。

はっとした。
わたし、もったいないことしてる。
今、この瞬間をちゃんと生きてないなって。

この一瞬は二度とない一瞬。
もう二度とない時間。
リアルで感じられるのは、いまこの時だけなんだ。

大好きな海の家の、バーカウンターの内側から眺める輝く月。
隣にはお気に入りの男の子(チーフだけど、けっこうな年下だったので)。
まったりとした雰囲気でほろ酔い。笑

よく考えたら最高じゃんか!
またチーフに教えられたな

今でもOKなのかな、軽く飲みながら働いてた。
ま、バーだからね。。。

飲食はその場で払ってもいいし、ツケもきいた。
ツケノートがあって、そこに何をどれくらい飲食したか書いていき、給料日に精算。

以前バイトしていた古株が来店すると、テキーラの一気飲みが始まったり。
あれは楽しかったな。
テキーラの味はそこで覚えた。
そして不思議なことに、何杯飲んでも酔わなかった。(仕事中で緊張してたのかな)

お客さんがご馳走してくれることもあったし、注文を取ろうと顔を見たら、有名なミュージシャンや俳優、モデルさんだったこともあった。

そんな時、一瞬ハッとするけれど、慌てず騒がず。
目や顔を伏せている方には、こちらも顔を見ずに接客したり。
有名人だって、夏の海、楽しみたいよねぇ

 

アルバイトは、地元の人もいれば、都内や遠い地の人もいた。
バイト用の寮もあって、共同生活しながら働いている様子は楽しそうだった。
わたしは通いだったけれど、こんなに楽しくていいんだろうかと思うほど楽しくやりがいのあるバイトだった。

地元にしっかり根をおろしつつ、未来を見据え作り出そうとする姿勢は今も変わらない。
今年も7月にオープンし、8月31日まで営業する。

R.I.P. Aさん

 

今週のお題「やったことがあるアルバイト」