たわむれ日記

たわむれに いろいろ書き散らします

映像が楽しみな『帰れない山』パオロ・コニェッティ

読了は『帰れない山』パオロ・コニェッティ。
ここ最近は新潮クレストブックスしか読んでない。笑

北イタリアの山岳地帯を舞台に、ミラノで育った少年ピエトロと山で育った少年ブルーノの友情と人生を描いた作品。

山を舞台にした物語やノンフィクションが好きで、今まで数十冊読んできたが、海外小説では初めてかも知れない。

同じ作者の『フォンターネ 山小屋の生活』を楽しむために手始めに、と読み始めたのだが、予想以上に良かった。

 

淡々とした語り口は、読み難い無骨さや無愛想さはなく、物語の奥行きと芯の強さみたいなものを感じる。

北インドには何度も滞在しているのでヒマラヤ山脈は馴染みがあるが、イタリアはおろかヨーロッパには行ったこともないので遠い感じ。検索したりGoogleアースで確認しつつ読み進めた。

 

でも、途中からその必要はなくなった。大袈裟な表現とは無縁の文章は、パチパチと木のはぜる暖炉の前で訥々と語るお話を聞いているよう。自然と山の情景が豊かに広がり、沢の音が聞こえ、焚き火の匂いなんかがしてくるようだった。

都会の少年と山の少年の友情と人生の葛藤を描いたある意味激しい物語だけれど、静寂を感じながら読んだ。

ジャンルはまるで違うが、よしもとばななさんの本を読むときに感じるものと同じ気がした。

 

都会生まれのピエトロと山生まれのブルーノの少年時代は、まるで映画「スタンドバイミー」のようで、その季節はやっぱり夏だ。

だがいつしか交流も途絶え、ピエトロは都会に移り住み、父とは衝突したまま疎遠になってしまう。そして父の死、その死をきっかけに山に戻るピエトロ。

和解出来ないまま逝ってしまった気難しい父親が山の家に遺した地図。その地図に込められた父の想いに気付くシーン、その地図を辿るように山を登るシーン、そして山頂のノートに父の筆跡を見つける場面は胸が熱くなった。

父の死によって再び始まるピエトロとブルーノの交流は、ぎこちなさの中にお互いに対する揺るぎのない信頼と尊敬が感じられた。
大事に想うからこそ、うまく伝えられなかったり、ぞんざいな態度になってしまったりするのは、全人類共通のものなんだな。

 

今まで読んだ山が舞台の小説は、山登りの過酷さ・危険さや厳しさの描写がメインで、その中に怖いような(畏怖っていうのかな)美しさを強く受け取ったものだが、この物語は違う。
けっこうすんなり登ってしまう。
そんな簡単にこの山は登れないだろうと思ったけれど、それは山が舞台だけれど切り口が違うからなんだな。

長い人生の中でいつも真ん中にある山。
曼荼羅の真ん中にそびえる須弥山のように、二人にとってかけがえのない存在になっていく山。

 

読了後は、静かな余韻に包まれた。この余韻はなんだろう。
と、これも感動のひとつなんだと気づいた。静かな感動の余韻。

 

映像になったら素晴らしいだろうな、と思っていたら映画化されて、この5月に日本でも観れるらしい。

やった!嬉しい。
手帳にメモした。
指折り数えて楽しみに待とう。