たわむれ日記

たわむれに いろいろ書き散らします

読了『常設展示室』原田マハ著

私は芸術的センスや研ぎ澄まされた感性を持たないが、それでも原田マハさんの美術を扱う作品はどれも好きだ。

最近文庫本になった『常設展示室』の単行本を図書館で借りて読んだ。久しぶりの原田マハさん。

小説も絵画もそうだけど、ひとたび世界に出るとその影響は細部まで広がっていくんだな。その作品を描いた画家の思いや状況とは全く関係のないところで、人々の人生に関わっていく。時にはその一枚の絵が癒しになり、救いになり、新たな一歩を踏み出す勇気にもなる。そんな短編集だった。

 

『群青』ではNYのメトロポリタン美術館のキュレーターである主人公の同僚が、子供たちを対象に美術を体験するワークショップで言った言葉が印象的だった。こんなふうに絵画って鑑賞するのか!って目から鱗

 

読みながら何度も途中で本を置き、気持ちを静めてからでないと読み進められなかったのは『デルフトの眺望』。
私自身一昨年父をガンで亡くしており、施設と病院、最後は緩和ケア病棟と移っていった父と重なり合って身につまされた。今でもうまく言葉に出来ない。まだリアル過ぎて。

 

『マドンナ』はシングルマザーとして頑張った老いた母親への主人公の複雑な想いの短編。
一人暮らしの母親宅に主人公が行くと、ハーモニカを吹いていて、もう一回吹いてよとせがむと「やだ。いまは、そういう気分じゃないから」ともったいぶる。じゃあどういうときがハーモニカ気分なの?と尋ねると、うふふと笑ってから、目を細めて主人公の顔を見つめ「さびしいとき」。
そして手にしていた銀色のハーモニカを箱に収め「今日はもうおしまい」と蓋をして、主人公の目を見ずに「おかえり。無事でよかった」とつぶやく。

我が母とは似ても似つかず、こんなしおらしいことは絶対しないけれど、きゅーんと胸の真ん中が痛くなった。
しおらしいかと思うと、骨折して全身麻酔で手術を受ける際『いいですよ、死んだらそれで寿命だもの。もう少し生きる寿命なら、生きて帰ってくるでしょ?』なんて医師あいてにケロッと言い放つ。
そんな母親が仕事先の事務机の前に「きれいだから、見てたら元気になる気がして」と雑誌から切り取り貼っていたのは、ラファエロの『大公の聖母』。

このお母さん、普通の会話をしていたはずなのに、唐突に何の脈絡もない話題にすり替わり主人公は当惑するのだが、私にはこのお母さんの思考の飛躍がよく分かる。他人には飛躍に映るけれど、当人にとっては繋がっていることなのだ。私も他人にはこう思われているんだな。。笑

 

『道 La Strada』は一番好きかも。なのであまり多くを語りたくない。
最後、ほろっときた。涙した。
生き別れになった兄妹の、奇跡のような切ないふれあいを描いたお話。読了後、胸の真ん中がぽーっと暖かくなった。はー読めて良かった。。

 

わたしは芸術作品を観るセンスが全くなく、美術館に行っても「わーきれい」「色合いが素敵、好み」「これがあの有名な・・・」という目しか持っておらず、原田マハさんの小説を通して、作品の鑑賞の仕方というのを学んだ気がする。
どの作品にも物語があるってことを気づかせてくれた。
美術館に行きたい、作品をじっくりと鑑賞したい。そんな気持ちを起こさせてくれる短編集だった。

図書館で借りたけれど、文庫本の購入決定です。